人気ブログランキング |

2008年 04月 09日 ( 1 )

岡田芳郎『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男は・・・』(講談社)

f0030155_18452687.jpg
岡田芳郎(1934-)
世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか
2008年1月18日 第1刷
講談社
1700円+税

(4月12日夜・記)
富山弁に「みゃあらくもん」と言う言葉がある。共通語で「道楽者」ということにでもなるのだろうか。あるいは「道楽者-酒色」かもしれない。いや、酒道楽・色好みを否定してるんじゃありません(汗)。ジョン・レノンの「イマジン」に出てくる
You may say I’m a dreamer
dreamerが「みゃあらくもん」かなぁ。僕にはとうていなるのは無理ですが「みゃあらくもん」、いい響きです。
たぶん佐藤久一(1930-97)も「みゃあらくもん」。酒田では「みゃあらくもん」に当たる言葉は何でしょうか。
本書は、岡田芳郎(1934-。早大政経卒、56年電通入社、98年退職)が定年退職後鬱々としていたある日、姉の家で偶然佐藤久一の妹に久一についての話を聞いたことに端を発してなった書。佐藤久一は「忘れ去られた男」(僕の調べてみたところではウィキペディアに彼の項目はなかった)ということだが、その男を「発掘」した岡田と佐藤には、時空を越えた運命の結びつきを感じる。
前袖にある佐藤久一の略歴から抜粋する。

1930年1月、山形県酒田市生まれ。
50~64年、映画館「グリーン・ハウス」支配人。
64年4月、日生劇場勤務のため上京し、同劇場課、食堂課で働く。
67年8月、酒田に戻り、以後、「レストラン欅」、「ル・ポットフー(清水屋)」、「ル・ポットフー(東急イン)」の支配人を務める。

グリーン・ハウス」時代には今では当たり前の顧客サービスを次々と企画実行する。それが20代だったから正に脅威です。彼が上映した映画には
ローマの休日、風と共に去りぬ、エデンの東、死刑台のエレベーター、甘い生活、哀愁、雨に唄えば、天井桟敷の人々、黄色いリボン、禁じられた遊び
などがある(順不同)。勿論もっとあるんですが、僕好みで作品名を勝手に選ばせてもらいました。このラインナップのすごさ、きっと皆様にもご理解いただけるのでは。佐藤は目利きだったんですね。
日生劇場時代には『恋の帆影』が上演中だった三島由紀夫(1925-70)から
「やあ、ご苦労様です。この劇場はいつ来ても胸がときめきますな」
と声をかけられ
それ以来久一は、もし酒田に劇場をつくるときは、できることなら三島の協力を得たいと考えるようになった。(本書p.99・一部略)
1967年11月30日「レストラン欅」オープン。「どうしたら、酒田ならではのおいしいフランス料理ができるのか」を追求する佐藤は1969年4月、辻静雄(1933-93)を大阪に訪れる。辻調理師専門学校の辻の私室で二人は強い結びつきを感じる。佐藤は自店のコックを引き連れポール・ボキューズ(1926-)らの講習会にも参加する。ところがその時、久一は大失敗をするのですね。ボキューズに親しみを込めて「ポール」とファーストネームで呼んでしまったのです。で、それで終われば「大失敗」なのですが、頭を下げて丁寧にわびる佐藤に何か感じるところがあったのでしょう、ボキューズが
「何が聞きたいんだね」
と近寄ってくるではないか。久一が居住まいを正してポシェの程度について尋ねると、ボキューズは「そこがいちばん大事なところなんだ」と丁寧に教えはじめた。
(本書p.134)
もう1箇所、本書からご紹介。開高健(1930-89)が1974年10月に佐藤三郎(当時・本間美術館副館長)に連れられて「ル・ポットフー」にやってくる。当夜の彼の飲食を本書をたどりつつ紹介する(本書pp.150-151)と、アペリティフに「初孫」、前菜に「うずらの網焼き」の後、「トマト入り牛せんまいのグラタン」、プーイィ・フュイッセ白、「がさ海老のマリニエール」「真イソのポワレ」、ボルドー赤。メインデッシュは「アントレコート・マルシャン・ド・ヴァン」。デザートは「チョコレートのムース」、コーヒー。
ル・ポットフーを出て、暗くなった酒田の町を歩きながら、開高は佐藤に言った。
「今日は生れて初めての体験をしました」
(本書p.151。引用箇所の佐藤は佐藤三郎-奥村注)
開高は後日丸谷才一(1925-)に彼の体験を話す。やがて丸谷もル・ポットフーを訪れ絶賛することになる。丸谷が食べた料理はp.152に載っています。

こんなにも魅力あふれる佐藤久一が「なぜ忘れ去られたのか」は本書をお読みいただいて各自確かめていただくことにして、それにしても、佐藤久一があの時代にあの土地にいたことは、ノスタルジーではなく尊敬に値する事実である。
by tiaokumura | 2008-04-09 18:45 | | Comments(6)