将来は高校の国語教師になろうと思っていたので、ン十年前^^に大学で教職課程も履修した。たぶん2年生のときだったろう、KE教授の「国語科教育法」の時間。教授から
大田区立石川台中学校に「
国語教育の神様」がいるとの話。それが
大村はま先生だった。先生の授業の「すばらしさ」は私などに語る資格もないが、1つだけエピソードを。戦後すぐの江東区立深川一中。敗戦直後の何もない時代である。先生は、疎開時の引越しに茶碗や靴を包んだ新聞紙を教材に使おうと考えられ、なんと
一人ひとり異なる100人分の教材を用意された。しかも、
それぞれの生徒の学習意欲を喚起できる手引きもつけて。今だったら「カリスマ教師」「伝説の教師」などとマスコミが持ち上げるところだろうが、先生にはそんな安っぽい形容や冠は似合わない。
04年だったか、先生の講演が東京であると聞いた。自分の名前でハガキ10枚、それでも不安で同僚に頼んで5枚くらい書いてもらい応募した。たぶん全国で何十万通の応募があったことだろう、残念ながらダメだった。2005年4月17日、先生は永眠された。享年98歳。
今回の自伝『
大村はま自叙伝 学びひたりて』(共文社 2005年)で先生のすばらしさを再認識した。
須賀敦子もそうだったが、先生にも
キリスト教の精神が脈打っている。先生の記憶力にも驚かされる。ご自身が教わった先生の一人ひとりについてフルネームでしかもその出会い・教わったことを克明に記憶されている。小倉遊亀も登場する。
83年に『
これからどうなる 日本・世界・21世紀』という本が岩波書店から上梓された。各分野の専門家400名余が執筆。先生は「
これからの国語教育」と題して5つのご提言。その1つ。「
教師はただ誠意・熱意・愛情の人であればよいのではない、その上に、教える専門職としての技術がなくては」そして「
その技術で『何』を教えるのか。その『何』の深さ、豊かさがなくては」(同書pp.116-117) 今日、私も含め「誠意・熱意・愛情」さえない「教師」の、なんと多いことか。
先日の新聞に「総合学習」で失態を演じた文部科学省が今度は「ことばの力」を強調し始めたとの記事。「総合学習」も「ことばの力」も大村はま先生が
深い実践ををなさっている。文科省、そして私も先生の爪の垢でも煎じて飲むべきだったのだろう。
先生のご著書・関連書はたくさんあります。一般向けにも新書で何冊か出ています。ご興味をもたれた方はぜひご一読を。
日本にもこんなにすばらしい教師がいたという事実にきっと感動し勇気づけられます。