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佐藤優『国家の罠』(新潮文庫)

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佐藤優(1960-。現在上告中)
国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて-
解説 川上弘美
新潮社(新潮文庫)
2007年11月1日 発行
705円+税

小泉政権下での田中眞紀子vs鈴木宗男は、やがて02年1月・田中の更迭、3月・辻元清美の衆議院議員辞職、5月・佐藤優の逮捕、6月・鈴木の逮捕と矢継ぎ早に展開し終幕を迎えた。僕なんかは佐藤優の逮捕があったとき、「こんな下品な男が日本の外交官だったのか」「権力闘争に負けた者の末路や哀れ」くらいにしか考えていなかった。「鈴木の腰巾着」という位置付け。少しだけひっかかったのは佐藤が同志社大神学出身だとか聞いた時。岡林信康も確か同志社神学(ただし中退)。同書p.495に
大多数の国民には、自己増殖した報道による私や鈴木氏に関する『巨悪のイメージ』と、その『巨悪』を検察当局が十分に摘発しなかったことに対する憤りだけが残ります。
とある通りで、僕も「大多数の国民」の一人。「巨悪は眠らさない」だったかかつての検察の名言を思ったりしたものだった。佐藤の容疑は「背任と偽計業務妨害」だってこともよく知らなかった。
保釈後の佐藤が次々と本を出し論壇で活躍しても「負け犬の遠吠え」くらいにしか思わなかった。それが、『図書』で岩波書店から『獄中記』が出るという広告を読んで「へぇ~」と思った。で、1冊くらい読んでみようかと本書を博文堂さんに注文し、先日届いた。だから覗き趣味というか怖いもの見たさ程度の読書動機。
文庫本の解説が川上弘美で驚いた。宮崎学あたりが解説だと思ってたので、僕なんかには「美女と野獣」みたいな取り合わせ^^。なぜ川上が解説を書くのか。彼女は理由をいくつか挙げている。まず、「『いい本だな』と思ったから」、次に「その書きようが、とても明晰」。そして「『美学』が、はっきりとにじみ出ている」本だから。川上弘美ファンとしては彼女が佐藤の著書の解説(「求める人」)を書くなんて全くビックリ以外にないのだけれど、「『ああ、本らしい本を読んだなあ。読んでよかったなあ』」「ため息をつきながらも、笑ったことでした」「おおっ、と思いました」など随所に川上ワールド。

この本、章立て通りに読んでいかないと人物相関関係や時の流れがつかみにくいかもしれない。佐藤の「逮捕」からまだ6年も経っていないのですが、ずいぶん昔のことのような気がします。裁判は現在上告中。結審はいつなんでしょうか。
本書は未完読。本筋から外れるが「三十一房の隣人」が興味深い。拘置所での佐藤のある時期の隣人は「三十年以上前、共産主義革命を目指して大きな事件を起こした人物」(同書p.467)。誰だろう、僕にはまだ同定できていない。佐藤は獄中でことばを交わさなかったが彼から多くを学び、「保釈になった後、私がいちばん最初に買い求めた本はこの隣人の書いた獄中手記」で「とても真剣で、高い水準のもの」だと感動する。
この本、もちろん佐藤の視点から書かれているので鵜呑みにはできないが、国家権力者(あるいは権力側の人間たち)の矮小さ・ご都合主義もよく実感できる。
それにしてもここ数年、権力の側にあった人間の暴露本というか内幕物、ずいぶん刊行されてるような印象。昔だったら「墓まで持っていく」だったのだろうけど。佐藤優は違うのかもしれないが、歯止めが効かなくなったというか「潔さ」がなくなりつつあるのかもしれない。「情報公開」の観点からいくと、いいことなんかなぁ。

(2月9日午後・追記)
「三十一房の隣人」って、たぶん坂口弘じゃないかと思う。
by tiaokumura | 2008-02-09 13:27 | | Comments(3)
Commented by 哲ちゃん at 2008-02-09 17:24 x
先日,親しい編集者から「佐藤優氏の本は,マスコミに関わる者にとって必読書だ」と強く薦められたので,じゃ,まぁ1冊くらい読んでおくか,と買ってきて読み始めたのが,『私のマルクス』(文藝春秋)。じつに面白い。まさに巻を措く能わず,一気呵成に読了しました。(内容については省略)
そこで,もう1冊か2冊,読んでおこうと,さっきこの『国家の罠』を買ってきたばかりです。これが面白ければ,『獄中記』と『自壊する国家』を読んで,ひとまず一段落とします。
Commented by tiaokumura at 2008-02-17 23:04
哲ちゃん、『国家の罠』は読み終わりましたか。僕はまだ3分の1くらいかなぁ。正直言うと、なんか脂っこいもの食べてていささかうんざりの感、なきにしもあらず^^。特に鈴木宗男をすごく評価してる(しすぎ?)ところ、本当にそうなのかなぁとか思ったりしてます。
ま、がんばって最後まで読んでみます。
Commented by 哲ちゃん at 2008-02-18 12:28 x
昨日,ちょっと遠出したので,その往復の電車の中で,残っていた半分ほどを一気に読み切りました。じつに面白かった。——ただ,佐藤氏の本は,この2冊で(当面は)止めておこうと思います。
しかし,佐藤氏がこれだけ面白いと,次に何を読もうか,困るけどね。
池澤夏樹編集の「世界文学全集」(河出)を全部読んでみるかなぁ・・・・と,このあいだ考えていたので,そちらに気持ちを向けようと思います。


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