姜戎(ジャン ロン)
『
神なるオオカミ(上)』
訳
唐亜明、
関野喜久子
2007年11月28日 第1刷
講談社
1900円+税
姜戎(僕と同年生まれ)の青年期の時代背景を知らない読者のために、
田畑光永「『神なるオオカミ』解説」が、本書の目次・おもな登場人物・関係地図の後についている。下放・文化大革命・紅衛兵・革命委員会・人民公社・知識青年・・・。どれも、僕がリアルタイムで聞き知った言葉。あの時代、当時の中華人民共和国・ソビエト連邦・朝鮮民主主義人民共和国は、大学教官などの「知識人」(この言葉も今は死語に近い)の一定層に支持されていた。中には直接間接にこれらの国に若者を送り込むのに与った知識人もいただろう。去年だったか、「北の理想郷」に教え子を送り込みその後教え子が消息不明(彼の地で粛清された可能性もある)になったことに対して、慙愧の念に耐えながら老いの人生を過ごしている某大学校教授のドキュメンタリーを、NHKで見たことがある。
歴史は一個人の運命なぞ弄ぶことが多いのだろうから、僕のような者にかつての知識人たちを責める資格はない。どのようにあがいても逃れられない時代の波ーそのように達観するしかないのかもしれない。
本書は、上掲田畑に拠れば「
中国社会に大きな傷跡をのこした文化大革命でしたが、これは数少ない収穫の一つ」。本書を知ったのはNHK中国語講座テキストです。中国は日本の10倍以上の人口なので、単純に比較できませんが、
中国で1800万人の読者獲得というベストセラー小説がこの本。著者名はペンネームで誰が書いたのか不明だったようですが、どこかの出版社か新聞社が著者との単独インタビューに成功したそうです。
上下合わせて1000ページになんなんとする大部な書。読み終わるのがいつか見当がつきませんが、少しずつ読んでみようと思っています。
なおこの本、写真でおわかりのように、
佐藤優氏のご推薦でもあります。
動物文学は、日本では古くは椋鳩十・戸川幸夫、比較的新しいところでは昨夏亡くなった西村寿行(1930-2007)、世界ではジャック・ロンドン、シートン、ファーブル、メルヴィル、ヘミングウェイなど、数々の傑作があるジャンル。
姜戎『神なるオオカミ』、日本語以外にも訳されてるはずですから、中国ばかりでなく多くの読者を獲得し続けることでしょうね。