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金沢朱美「『ヘルンさん言葉』-小泉八雲の日本語―」

5月11日(金)、久々に母校・富山大学(僕は2006年4月人文学部言語学コース3年次編入、08年3月同卒業)を訪れた。目的は富山大学人文学部第2回言語学公開講演会の
時崎久夫教授(札幌大学)「簡単な言語・複雑な言語 世界の言語の難しさは同じ」
の受講。生協裏に車を停めて生協2Fで買い物をしていたら、恩師の呉人惠教授(人文学部)とバッタリ。生協では本・CD・インクリボンなどを買ったのですが、先生のおかげで5%引きになった^^。買った本は伊丹十三『女たちよ!』(新潮文庫)。僕、1970年前後、伊丹の本にハマってました。今それら(『ヨーロッパ退屈日記』『再び女たちよ!』『日本世間噺体系』)が新潮文庫に入ってたんですね。伊丹は青山二郎・白洲次郎・植草甚一・石津謙介らと共に日本人ダンディ・トップ10に入るでしょうね。

富山大学には「ヘルン文庫」がある。1924年6月に馬場はるによって寄贈された。ヘルンは小泉八雲(こいずみ・やくもラフカディオ・ハーンLafcadio Hearn1850-1904)。馬場は北前船廻船問屋の妻で、富山大学の前身の富山高等学校設立にあたっても多額の寄付をなした。ポートラム蓮町駅すぐの馬場記念公園には馬場はるの像・富山高校の歌碑がある。最近のニュースで知ったのですが、富山大学生協食堂に「ヘルンランチ」なるメニューができる(もうできた?)とか。僕たちの若い頃のアイドル、マリ・クリスティーヌが現在 富山大学客員特別研究員で彼女の提案によるものらしい。ハーンの料理本『クレオール料理』に収録の「ガンボ」を再現。ハーンのレシピを参考にし、「オクラ、鶏肉、エビなどを煮込んだスープ料理。チリパウダーやバジル、オレガノなど7、8種類の香辛料を使い、生トマトを添えた。カレーのようにご飯にかけて食べる。(讀賣新聞2012年5月10日付)」だそうです。

スリーエーネットワークの「季刊ジャネット」におもしろい記事が載っていたので紹介したい。スリーエーネットワークは日本語初級定番教科書『みんなの日本語』(今夏第2版が出る)など日本語教育本発行大手。紹介するのは金沢朱美(かなざわ・あけみ1947-)前目白大学教授の「『ヘルンさん言葉』―小泉八雲の日本語―」(「季刊ジャネット」April2012巻頭寄稿)です。
ハーンって日本語が堪能だったんだろうと勝手に思っていましたがそうじゃないんですね。
・・・ハーンは非常に日本語が堪能だったと思っている日本人もたくさんいます。しかし、日常言語活動における日本語が自ら「ヘルンさん言葉」と呼ぶ、標準日本語から文法が逸脱した、ハーン独特の、日本語の変種となっていた(p1)
・・・ハーンの日本語は耳から習得した知識のみで、英語における思考の形式をそのまま転移したものであり、体系的な日本語学習はほとんどしなかった・・・(p2)
金沢論考には手紙が引用されている。
1904年8月18日付、小泉セツ(こいずみ・せつ1891-1904)から焼津のハーン宛。
・・・パパサマ、アナタ、シンセツ、ママニ、マイニチ、カワイノ、テガミ、ヤリマス。ナンボ、ヨロコブ、イフ、ムズカヒイ、デス。アナタ、カクノエ、ヒキフ子ノエ、オモシロイ、デス子―。ワタシラ、ハヤク、やいづエ、マイリマスト、パパノカオ、ミルト、オモシロイノ、コトバ、キク、大イー、スキ。・・・
「ヘンな日本語!」と思われるだろうが、セツがおかしいのではない。士族の娘でもあったセツは教養のある慎ましい女性であったろう。その彼女が考えに考え抜いて作ったハーンのための日本語がこれなのである。日本語教育でいう「フォリナー・トーク」。文意は「パパ様、あなたは親切にもママに毎日かわいい手紙をくださいます。それがどんなに嬉しいか言葉で言うのは難しいです。パパの描く絵、曳船の絵はおもしろいですね。私たちは早く焼津へ参ります。そしてパパの顔を見るのもパパのおもしろい言葉を聴くのも大好きです。・・・」とでもなるのでしょうか。「オモシロイ」はinterestingのつもりでしょうか。
1904年8月19日付、ハーンの返書。
・・・小・ママ・サマ・アナタ・ノ・タクサン・カワイ・テガミ・アリマス・ダイク・ワ・ト・カベヤ・ワ・アリマス・ト・キク・カラ・タクサン・ヨロコブ・コンニチ・アサ・ウミ・ガ・ソノ・ヨナ・アライ・オヨグ・スカシ・ムツカシイ・デスカラ・ワダ・ニ・マイル・オトキチ・サン・デ・トオモウ・・・
文意は「ママへ。たくさんのかわいいお手紙ありがとう。大工と壁屋が入って(家を造っている)ということを聞いてとても嬉しいです。今朝は海が荒れているので泳ぐのは難しいです。わだに行っておときちさんに会おうと思います。」とでもなろうか。「小ママ」はDear Momの意図かも。
再び金沢の論考から。
・・・「ヘルンさん言葉」は、ハーンのブロークン・ランゲージとセツのフォリナー・トークとの相互作用によって徐々に安定性のある体系的なピジン性の強い一変種になっていった(p2)

初めて知ったハーンの日本語。日本語教師としても彼の日本語、興味深いものがあります。
なお、金沢には『ヘルンさん言葉の世界―小泉八雲の日本語と明治期の日本語教育を巡って』(2011年。近代文藝社)の著書があるそうです。
by tiaokumura | 2012-05-20 13:53 | 日本語教育 | Comments(2)
Commented by おばちゃん at 2012-05-25 21:48 x
こんにちは。
富大に去年編入したおばちゃんです。
先日は突然自己紹介から始まってしまってすみませんでした。
お会いできて光栄です!
いずれ東京に帰ることになるので、そこで日本語教師になりたいと思い、勉強中です。
またよろしくお願いします!
Commented by tiaokumura at 2012-05-28 07:02
おばちゃん様、ご訪問&初コメント、ありがとうございます。こちらこそお知り合いになれて光栄です。
7月か8月に、Yさん・Tさん・Kさんと食事会しましょう。BBQもいいかも。
8月に代々木のオリセンで日本語学校の研究大会がありKさんが発表します。東京にいらっしゃるようならぜひご参加を。
拙いブログですがこれからもご贔屓に(照)。


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