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『寺山修司全歌集』(講談社学術文庫)

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寺山修司(てらやま・しゅうじ1935-83)
寺山修司全歌集
2011年10月11日第2刷(2011年9月第1刷)
講談社(講談社学術文庫)
1100円+税

寺山修司が「学術」文庫に入るというのは、僕にはなんだか不思議な感じがする。本書カヴァー裏の広告「講談社学術文庫 既刊より『俳句と短歌を味わう』」には久松潜一や山本健吉や小西甚一や久曾神昇といった名があるのだから、僕の違和感もむべなるかなでしょうね。ただ、野間省一の「『講談社学術文庫』の刊行に当たって」(1976年6月)によれば、「学術は少年の心を養い、成年の心を満たす。」ということだから、寺山が「学術」であっても不思議はないのかもしれない。かつての異端・辺境・アングラ・サブカルが、時代の波間を漂い中央に躍り出たということでしょうか。あるいは、スキャンダラスで毀誉褒貶の多かった寺山修司も、没後30年近く経て落ち着くべきところに落ち着いたということでしょうか。
この間の横尾忠則展でふと思った。三島由紀夫・寺山修司・土方巽・澁澤龍彦は故人、横尾忠則・唐十郎・高倉健・藤純子・細江英公・麿赤児らは存命。同時代人が幽明境を異にすることの不条理・不可逆・不可思議。私もまもなく同時代を生きた皆さんと幽明境を異にするのでしょうね。

本書所収、1970年11月(寺山は34歳)の「」から引く。
歌のわかれをしたわけではないのだが、いつの間にか歌を書かなくなってしまった。だから、こうして「全歌集」という名で歌をまとめてしまうことは、私の中の歌ごころを生き埋めにしてしまうようなものである。・・・/思えば私の作歌は、・・・本質の方が存在に先行している畸型児だったような気がする。三十一の言葉の牢獄に、肉声のしたたりまでも封じこめてしまった暗い少年時代を、私は今なつかしく思い出している。/・・・いつも「私」を規定することにばかりこだわっていて、ついに裏返しの自己肯定の倣岸さを脱けることがなかった・・・(pp320-321)

「寺山修司、僕の好きな十五首選」は以下の通り。なお本書、「全歌集」ですが『月蝕書簡』は入っていません。
大工町寺町米町仏町老母買ふ町あらずやつばめよ(『田園に死す』恐山・少年時代)
村境の春や錆びたる捨て車輪ふるさとまとめて花いちもんめ(『田園に死す』犬神・寺山セツの伝記)
海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり(『初期歌篇』燃ゆる頬・森番)
かなかなの空の祖国のため死にし友継ぐべしやわれらの明日は(『初期歌篇』記憶する生)
一本の樫の木やさしそのなかに血は立ったまま眠れるものを(『初期歌篇』夏美の歌・十五才)
言い負けて風の又三郎たらん希いをもてり海青き日は(『空には本』チェホフ祭)
わが窓にかならず断崖さむく青し故郷喪失しつつ叫べず(『空には本』直角な空)
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや(『空には本』祖国喪失・壱)
麻薬中毒重婚浮浪不法所持サイコロ賭博われのブルース(『血と麦』砒素とブルース・弐 肉について)
ひとの不幸をむしろたのしむミイの音の鳴らぬハモニカ海辺に吹きて(『血と麦』蜥蜴の時代)
日傘さして岬に来たり妻となりし君と記憶の重ならぬまま(『血と麦』蜥蜴の時代)
北一輝その読みさしのページ閉じ十七歳の山河も閉ず(『血と麦』うつむく日本人・壱 他人の時)
髪刈ってボルシェヴィキの歌うたう或る日馬より蒼ざめていん(『血と麦』うつむく日本人・弐 小さい支那)
人生はただ一問の質問にすぎぬと書けば二月のかもめ(『テーブルの上の荒野』煮ゆるジャム)
とぶ翼ひろげしままに腐蝕せし銅版画の鷹よ・・・われの情事(『テーブルの上の荒野』罪)

アップした写真、文庫本の下になっている雑誌は、「時空旅人Vol.4 昭和怪物伝」です。この雑誌、本屋さんでたまたま見かけ買いました。6つのジャンルに分け、例えば「軍」であれば山本五十六・板垣征四郎・石原莞爾・宇垣一成を、「経済」であれば正力松太郎・瀬島龍三・中内功・井深大・安藤百福・松永安左エ門を選んでいる。僕は「昭和の子」なんでしょうね、「学問」の内藤多仲以外の30人、わかります。寺山は「文化」に岡本太郎・三島由紀夫・円谷英二・手塚治虫・黒澤明と並んで選抜。僕は知らなかったのですが、
死を前に、主治医にしたいことを聞かれ、「女学生をいっぱい裸にしてその上に寝たい」と答えたという。(p91)
ってエピソード。「女学生をいっぱい裸にしてその上に寝たい」って、僕なんかが言うと単なるスケベじじい^^ですが、これが寺山(当時47歳くらいか)となると「いかにも」ってエピソードに変貌するのでしょうね。

明日から入院。癌では3回目の入院になります。今回は、抗癌剤のシスプラチンの点滴注射が主目的。入院日数はそんなにないと思います。ここのところ向田邦子が読みたい気分で、文庫本の『父の詫び状』『隣の女』『男どき女どき』『思い出トランプ』を持参します。あと「図書」連載がまとまった中野三敏『和本のすすめ-江戸を読み解くために』(岩波新書)も。

(追記)
余計なお節介^^ですが、上掲の雑誌「昭和怪物伝」中の松岡洋右の没年、間違っています(p16)。正しくは「昭和21年(1946)」です。
by tiaokumura | 2011-11-03 15:17 | | Comments(8)
Commented by jackiemai at 2011-11-07 05:16 x
寺山修司、恥ずかしながら読んだことありませんでした。
でも、「死ぬ前にやりたいこと」のエピソードで、ガゼン、興味がわいちゃいました!(^^ゞ
また入院なのですね、お大事なさってくださいね。
更新を待ってますが、ご無理なさらぬよう…
Commented by 増山 at 2011-11-07 07:36 x
同じく病気と“共存”している鳥越俊太郎は、「子供がほしい!」と言っていましたよ。奥さん、娘さん2人、お孫さんがいての、この発言です。「孫とは違うんです!」と。また、「妻にも説明して了解してもらう」とも。ぜひ!
Commented by 粕谷謙治 at 2011-11-07 11:15 x
寺山修二を高校生のころ読んで、本当に家出してしまったことがあります。無礼ボーイにならなきゃ。

お体には、くれぐれもお気をつけください。
Commented by tiaokumura at 2011-11-09 18:45
jackiemaiさま、別に寺山読んでなくったって恥ずかしいってことありませんよ。でも興味持ったら読んでみてください。「へ~こういう人もいたんだ」って新鮮かも。図書館でもいいし、文庫本もけっこう出てるかと。
おかげさまで昨夜退院しました。
Commented by tiaokumura at 2011-11-09 18:48
増山さま、鳥越俊太郎ってTVキャスターでしたっけ?そんなに自分の子どもってほしいんですかねぇ。自分にはちょっと理解できない。
「髪刈ってボルシェヴィキの歌うたう~」はたぶんサヴィンコフ(ロープシン)を踏まえた歌だと思います。
Commented by tiaokumura at 2011-11-09 18:50
粕谷謙治さま、そうですか、家出経験ありですか。無礼ボーイって「高校放浪記」とかってちょっとエッチな漫画あったような。
おいしいもの(が何かわからないのが困ったところですが)食べに行こう!
Commented by カフェカナンケンジ at 2011-11-14 22:02 x
寺山修二って身毒丸やああ荒野、先日スズナリで寺島しのぶ、中山ラビ等の芝居がありましたね僕はあまりすきではないけど・・・田園に死すもだいぶ前に見たけどいまいちだった様なきがします!11月9日の夕刊フジに柄本家お気に入りの喫茶店で紹介されました!時生、祐、和枝さんネタや三國さん戸田恵子さん常連の店です!先日、スズナリで見たハロルド・ピンターの戯曲が面白かったです、<部屋、祝宴>と言う作品でした。それと平幹の清水邦夫「エレジー」これは富山でも公演しました、これも面白かったです!それと黒田京子のピアノを聞きに行きました。彼女は開店当時から近くのバーで演奏のあいまにお茶をよく飲みきてくれた人で坂田明の伴奏をしてました。日本の前衛ジャズでは有名です!先日ぶちゅ夫妻が来店したので先生のことブログを見るように言っときました!できれば富山に時間を作って行きたいと言ってました。抗がん剤治療大変でしょうけどがんばってください!下北Canaanのケンジでした!
Commented by tiaokumura at 2011-11-17 09:28
カフェカナンケンジ@下北沢さま、ゲキぶり&長文のコメント、ありがとうございます。情報提供もありがとう。祐って、こないだNHK朝ドラに出てた彼ですよね。実にユニークな俳優だ。将来楽しみ。
ぶちゅ夫妻とも会いたい。東京行き、来年は実現したい。その時は、何人か集まれると嬉しいかな。
平幹、地元のTVでも宣伝してました。黒田京子、機会があったら聴いてみます。
また気が向いたらコメントください。


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