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むのたけじ『希望は絶望のど真ん中に』(岩波新書)

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むのたけじ(むの・たけじ1915-。本名は武野武治)
『希望は絶望のど真ん中に』
2011年8月19日 第1刷
岩波書店(岩波新書)
700円+税

アップした写真『希望は絶望のど真ん中に』は、むのたけじ『戦争絶滅へ、人間復活へ-九三歳・ジャーナリストの発言』(写真右)に次ぐ岩波新書。前著では黒岩比佐子(くろいわ・ひさこ1958-2010)という才能あるインタビュアーが「93歳・ジャーナリスト」の発言を縦横無尽に引き出している。むのの黒岩への弔辞は黒岩のブログ「古書の森日記」のこちらで読むことができます。

当ブログ、「むのたけじ」で検索すると6件ヒットします。僕がむのを知ったのはもう半世紀近く前になる。高校の先生から教えられたのか(進学校で社共系の「進んだ」先生もいた)、あるいは大学進学後にクラスメートのH君(秋田出身)から教えられたのか、どちらか今は記憶が定かでない。『たいまつ十六年』(今は「岩波現代文庫」に入っている)・『詞集たいまつ-人間に関する断章604』あたりを20歳前後に読んでいると思う。戦後思想史の中で、僕にとっては「むのたけじ松田道雄(まつだ・みちお1908-98)・花森安治(はなもり・やすじ1911-78)」が同じ位置づけになる。3人の共通点は(僕の勘違いかもしれぬが)、「民衆の視点に立ち、女・こどもの力を信じ、現実主義者にしてロマンチスト」ということになる。

本書『希望は絶望のど真ん中に』の主題は
人類が作り出している現状の本質、世界情勢の土台にあるものをできるだけ明らかにして、私たちみんながその状況にどう立ち向かって生きていくかについて一個の材料を提供したい(p5)
であり、むのにとってジャーナリズムとは
民衆生活の朝夕の相談相手ですな。個体と全体をつなげる絆の大切な一本ですな。世の中の続発する動態についてその原因と過程と結果を明らかにして、さらに一つの結果が次の新しい原因となる筋道を明らかにする作業。これが何よりの任務です。(p6)
現在のジャーナリストでどれだけの人が「任務」を果たしているだろうか。

1940年8月、当時のむのは報知新聞社社会部記者で中国行きを命じられる。彼は内モンゴル地区に入り最前線を歩き回る中で、
中国の政府も民衆も日本国に屈伏して要求を聞き入れる日は決して来ない。その可能性はゼロよりゼロだ。つまり日本の政府・軍閥が中国に勝つ日は絶対にあり得ない、と。(p76)
確信する。そして、おそらくそこまでは多くの従軍記者や作家も似たような情勢分析を行ったのだろうが(むろんそのことをペンでは表せなかっただろうが)、むのがジャーナリストとして選んだ道は、
「真実であれ事実であれ、それをねじ曲げてウソを書いたり言ったりすることは、決してやらない。万一それをやらねばならぬことに身を置いたら、その時にはペンを砕いて捨て、口を閉ざして開かない。真実を真実と言えない世なら、まともな世に造り変えるため、お互いに命を大切にして皆で頑張っていくだけだ。無論おれもその一人として努力し続ける。では日常不断の仕事では、どのように心掛けるか。ホントをホントと言える範囲でホントを言い続けていく」。(p77)
むのの朝日入社は、今でいうヘッドハンティングみたいなことになる。給料の話(p82)は読んでて笑った^^。朝日新聞社には1940年12月から45年8月までの4年9か月の在籍になる。

本書「96歳・ジャーナリストの熱い書き下ろし」(帯より)の各章(序章~結章)のタイトルは順に
歴史の歩みは省略を許さない 現在を刺す七〇〇万年の歩み 農耕の中から何ゆえに戦争が? 人類の余命は四〇億年か四〇年か みんなの課題にみんなで取り組む 足元から世界を耕す
巻末に「むのたけじ・著書一覧」。本書のタイトル「希望は絶望のど真ん中に」は
あの敗戦時に日本国民が力を合わせて、自分らのやった戦争行為の一切をわが手で裁き、迷惑をかけたすべての人々にありったけの真心を込めて詫びて許しを請い、そして自分らの進路を自分らの力で開拓したら、物ごとの姿が二面であれ、もっと多面であれ、真相をハッキリと見て取ったに違いない。(略)絶望のど真ん中の、そのどん底にこそ、不滅の希望が輝いているのだ。それを知って体感すれば、人々のやれること、考えることに新しい知覚と活力が満ちて、物ごとを必ず豊かに実らせるに違いない。人類史を土台から組み替えるようなすさまじい平和運動を創造して戦争を絶滅させ始めたに違いない。(p25)
から来ているのでしょうね。むのが80歳で到達した「遅すぎた目覚め」(p25)である。

最近は何を読んでもつい「」のことが引っかかってくるが、むのは
(略)八五歳での胃がんが治った。九二歳での肺がんも治った。次は「心臓に水がたまって要注意」と主治医に言われたが、それもよくなりつつあるそうで、今は生後九七年目を歩きつつある。(p19)
とのことです。
by tiaokumura | 2011-08-27 16:21 | | Comments(2)
Commented by 増山 at 2011-08-28 22:53 x
伊集院静の『いねむり先生』、読み終わりつつあります。
米原万理をあまり読まなかった理由と同じですが、個人の特異な体験を、上手な文章かもしれませんけど、書き綴ったものを読むのは、あまり好きじゃないかもしれません。
でも、世の中にはいろいろな本があるのですね。またいろいろ紹介してください。
Commented by tiaokumura at 2011-08-29 11:23
増山さま、「個人の特異な体験」って米原万理も確かにそうかも。でもこれだけ人気がある(今はない?)のは、そこを超えて普遍的なところもあるし、女性の生き方(自己実現^^)に共感も得てるんでしょうね。
今、『嘘のような本当の話』ってぇのを読んでいます。


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