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学院長式辞@2009年度卒業式(2010年3月15日)

例年になく多かった雪も今や私たちの眼前からすっかり消え失せ、陽光うららかな今日の佳き日、富山国際学院2009年度卒業式にあたり、富山国際学院教員15名を代表して式辞を述べさせていただきます。
ただ今私が卒業証書を授与させていただいた、中華人民共和国、ネパール連邦民主共和国、バングラデシュ人民共和国、フィリピン共和国、大韓民国、インド共和国、パキスタン・イスラム共和国、スリランカ民主社会主義共和国ご出身の皆様、
ご卒業、おめでとうございます!

恥ずかしながら私は皆さまのような留学生活を経験したことがございません。そんな私は皆様の留学生活を精一杯の想像力をもって理解するしかありません。
皆様の2年間ないしは1年半の富山での留学生活はどのようなものであったでしょうか。
「日本語ができないだけで、俺はなんでこんなにひどい目に遭わなきゃならないんだ」
「母国で私が聞いていた日本・日本人なんて嘘っぱちだったんだ」
「親が工面した学費を僕は無駄にしているのではないだろうか」
「こんなに日本語が習得できないわたしは、馬鹿なんじゃないだろうか」
「初めての雪は嬉しかったけど、雪がこんなに大変だとは」
そんな思いになられたこともおありでしょう。
一方で、
「先生方のおかげで日本語がわかるようになりました!」
「親切な日本人にたくさん会うことができました!」
「ひらがな・カタカナさえよくわからなかったのに、今は漢字大好きです!」
「学校行事・校外学習を通じていろいろな経験ができ、いろいろな出会いがありました!」
「先生、ありがとうございます。志望大学に合格できました!」
そんな思いもおありでしょう。

皆様方のご努力が実を結び、今日こうして富山国際学院での留学生活を終えられることは、今の皆様方にとって何よりの喜びでありましょう。
皆様の前途には、今の皆様以上の喜びがいくつも待っております。しかし同時に数限りない困難も待ち構えております。皆様が幸せである時は、特別に富山国際学院にご報告いただかなくてかまいません。しかしながら、もし皆様が絶望に襲われそうになったその時には、私たちを思い出してください。私たちはスーパーウーマン・スーパーマンではありませんが、つらいあなたの手助けが少しはできるかもしれません。

今日本国には400を超える日本語学校がありますが、富山国際学院はおそらく日本で最も小さい日本語学校です。皆様が、東京や大阪といった大都会ではなく富山の定員60名というミニ日本語学校を日本留学のスタートに選んでくださったこと、そしてこうして無事に卒業されたことに対して、私は感謝の念でいっぱいでおります。「教えることは学ぶこと」でもあります。私は皆様からたくさん学ばせていただきました。
ありがとうございます!

さてここで、卒業される皆様に一つの言葉をお贈りいたします。
小津安二郎という日本映画界を代表する映画監督がいます。残念ながら今は故人ですが、世界映画史上に残る『東京物語』などの名作を世に送り出しました。その小津安二郎の遺した言葉に
なんでもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従う
という名言があります。繰り返します。
「なんでもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従う」
私はこの言葉を私なりに解釈して座右の銘にしています。それをご紹介します。
自分にとってどうでもいいことは他人に従えばいい。しかし、自分にとって本当に大切なことは自分自身に従おう
です。
実は私はKYという言葉が大っ嫌いです。しかし人生においては「空気を読」まなければならない場面がしばしば訪れます。そんな時はその場の空気に従っておけばいいのでしょうね。しかし、あなたにとって本当に「大切なこと」-それは、自分自身で決定し自分の信じた道を突き進んで行ってください。「自分にとって『大切なこと』が何か」は一人ひとり異なっています。「大切なこと」だと思っていたことが実は「どうでもいいこと」であったり、「どうでもいいこと」が実は「大切なこと」であったりすることもあります。難しいですよね、「大切なこと」の選択基準は。まぁ、そうではあれ、富山国際学院2009年度卒業式でかなりジジイな奥村が
「自分にとってどうでもいいことは他人に従えばいい。しかし、自分にとって本当に大切なことは自分自身に従おう」
と言ったのを、皆様の頭の隅に置いていただけたら嬉しいです。

最後になりますが、皆様の前途に輝かしい未来があることをご祈念しつつ式辞とさせていただきます。
皆様、本当におめでとうございました!

2010年3月15日
富山国際学院
学院長 奥村隆信
by tiaokumura | 2010-03-15 16:21 | 僕は学院長1年生 | Comments(4)
Commented by かぐら川 at 2010-03-15 20:51 x

“贈ることば”として、私に向けて語りかけられているようで、深く胸に刻みました。卒業、巣立ち、旅立ち、節目ということの意義を考え直してみたくなりました。
Commented by ますみ at 2010-03-15 22:17 x
奥村様の式辞に感激いたしました。
この時期は胸にしみることがたくさんあります、今の私には涙の出るお言葉でした。
私から
『ありがとうございました。』
Commented by tiaokumura at 2010-03-19 20:00
かぐら川さま、コメントありがとうございます。
「理事長」として式辞を述べたことはありますが、「学院長」としてはデビュー^^でした。いつもは「語彙コントロール」と言って、学生の日本語レベルに合わせて話すのですが、今回の式辞はあまりそういうことを考えませんでした。式の雰囲気も含め、そういうのも「日本語学習」ではアリだろうという考えです。
かぐら川さまに、「深く胸に刻みました」とおっしゃられると照れくさい限りです。
Commented by tiaokumura at 2010-03-19 20:03
ますみ様、コメントありがとうございます。
「感激」「涙の出る」って、褒めすぎです(照)。来年も式辞担当になると思います。来年は来年で間近になったら、うんうんうなりながら作ることになるでしょうね。1年前から準備なんてできませんもんね。
激務の日々、どうぞご自愛を。


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