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木村大作監督『劔岳 点の記』(2009年)

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(6月14日午前・記)
原作・新田次郎(1912-80)
主なスタッフ
監督・木村大作
製作・坂上順 亀山千広
脚本・木村大作 菊池淳夫 宮村敏正
音楽監督・池辺晋一郎
山岳監督・多賀谷治
企画協力・藤原正広 藤原正彦
主なキャスト
柴崎芳太郎(陸軍参謀本部陸地測量部 浅野忠信)
宇治長次郎(測量隊案内人 香川照之)
小島烏水(山岳会 仲村トオル)
生田信(陸軍参謀本部陸地測量部 松田龍平)
柴崎葉津よ(柴崎芳太郎の妻 宮崎あおい)
古田盛作(元陸軍参謀本部陸地測量部 役所広司)
行者(夏八木勲)

手元に2006年11月に復刻された『中学校社会科地図』がある。「昭和25年9月25日」の奥付があるから、今70歳前後の方々が中学生時代に使った地図帳でしょうね。地図帳には「チョンホワ民国」(首都はナンキン)「ハーヌ民国」(首都はソウル)があり、資料類には1950年代初頭の世界・日本の「今」が興味深く探られる。26-27ページ(中部地方)の綴じ目あたりに「劍岳 3003」が載る。

全国公開に先立つこと1週間。昨日土曜日朝、映画『劔岳 点の記』を観てきた。9時半過ぎに自宅を車で出て約8分の「シアター大都会」。チケット売り場には既に10人ほど。急いで並んでふと後ろを見たら更に数十人の行列ができていた。この日はいくつかの映画の封切日だったんでしょうが、『劔岳 点の記』人気が一番。運転免許証を見せて人生生まれて初めての「シニア料金=1000円」(照)。「スクリーン2」に入ったらもう既に9割以上の客。スクリーンから前列2列目真ん中あたりにようやく席を見つけた。

映画『劔岳 点の記』覚書いくつか。
①今年7月13日に古希を迎える「伝説の活動屋」木村大作(きむら・だいさく1939-)の監督初作品。木村は森谷司郎・岡本喜八・深作欣二・降旗康男・山下耕作・中島貞夫・舛田利雄・大森一樹・チャンイーモウら錚々たる監督の下でキャメラマン。1973『日本沈没』(森谷)・1977『八甲田山』(森谷)・1981『駅STATION』(降旗)・1986『火宅の人』(深作)・1996『わが心の銀河鉄道 宮沢賢治物語』(大森)・1999『鉄道員』(降旗)・2006『単騎、千里を走る。』(チャン・イーモウ)などなど。その木村がCGも空撮も使わず、「”本物の映画作り”を目指し妥協をせずに、自分がやろうと思ったことをやりました。」。小津安二郎だったと思うが「どうでもいいことはみんなに従い、大切なことは自分に従う」を連想させる。
②明治39(1906)年、陸軍参謀本部陸地測量部測量士柴崎芳太郎(1876-1938)は、日本地図で空白地点になっている劔岳の初登頂と測量を命ぜられる。前人未到の劔岳は映画『黒部の太陽』を、山岳会(後に「日本山岳会」)との競争は映画『八甲田山』を連想させる。柴崎が相談に行った元の上司の古田盛作は案内人として宇治長次郎(1872-1945。富山県新川郡大山村出身)を紹介する。
映画は柴崎たち測量隊の軌跡を忠実に再現する。「全部本物の場所で撮影する」「自分の目高で撮っていく」(木村)。CGも空撮も使わずにどうやって雪崩や滑落のシーンを撮ったのか、素人の僕には想像を絶する困難や苦労があったことでしょうね。浅野(柴崎)や香川(宇治)らの役者魂はすごい。自然の前で人間はちっぽけな存在であることは確かだが、そんなちっぽけな人間たちがこのように映画作りを成し遂げたことに深い敬意を表したい。「人間は創造する葦である」と言いたい。
③この映画の主人公は柴崎・宇治であるが、「劔岳」も「主人公」だと言える。その自然美の荘厳さ・人間を拒絶する峻烈さ。僕は登山経験は薬師岳と立山(雄山)しかないのですが、「劔岳」は小島烏水(こじま・うすい1873-1948)がそうであったように今でもアルピニストの憧れの山なのでしょうね。
ここまで読まれてお気づきでしょうが、名峰「つるぎだけ」の「つるぎ」にはいくつかの表記があります。この映画では「劔岳」、広辞苑は「剣岳・劔岳」、大辞林は「劒岳」、前述の社会科地図帳は「劍岳」。さらに原作の新田次郎では新版・文春文庫版でまた異なるから、合計6種ということになります。常用漢字では「剣」が正字?で残り5種が異体字?になるのでしょうか。お山は一つで字種が6種、「ギョエテとは俺がことかとゲーテ言い」ですよね(爆)。勤務先の富山国際学院のスタッフの地元上市(かみいち)ご在住の石川さんに「固有名詞」ではどうなっているのか確かめてみようと思います。
剱岳の標高は、柴崎測量隊計測で2998m、昭和5年に3003m、昭和43年に2998m、平成16年には2999mと変遷。僕は中学では3003mで覚えていたと思う。現在のような人工衛星による観測などない時代の柴崎測量隊の技術の高さに驚く。
④立山曼荼羅(まんだら)・立山信仰・芦峅寺(あしくらじ)・雄山(おやま)神社など、富山県民の僕にはある程度知識があるシーンがいくつもある。映画の「富山驛」は現在の富山地方鉄道(通称「地鉄」)「岩峅寺(いわくらじ)駅」でロケしたそうです。
⑤クレジットでは「仲間たち」としてキャスト・スタッフ・協力地・協力機関などが平等に流れる。こういうところにも木村大作監督の想いが現れているのでしょうね。映画『劔岳 点の記』における撮影隊(木村・浅野ら)と山岳ガイド(多賀谷ら)の関係に、明治期の測量隊(柴崎ら)と案内人(宇治ら)の関係が重なる。
⑥「人がどう評価しようとも、何をしたかではなく、何のためにそれをしたかが大事です。悔いなくやり遂げることが大切だと思います」-古田から柴崎あての手紙の一節。また、映画のパンフレットに曰く、「決して名誉のためでもなく、利のためでもない。仕事に誇りをもって挑む男たち。いま、わたしたちが失くしつつある、日本人の心の物語である。」、「誰かが行かねば、道はできない。」。どれも、つい愚痴をこぼし凹みがちな日本語教師の僕に突き刺さる名言である。
他にも、陸軍の柴崎測量隊への「評価」・この映画の音楽・長次郎谷・明治という時代・新田次郎のこと・修験道などいろいろありますが、このくらいに留める。
この映画の公式サイトは(右にもリンクしてありますが)こちらです。

久しぶりに「また映画館で観たい映画」に出会いました。『おくりびと』に続く富山県ゆかりの名画『劔岳 点の記』。富山県内で1週間の先行上映後、6月20日(土)より全国上映。「百聞は一見にしかず」-皆様もぜひ映画館に足をお運びになって、2時間19分、スクリーンに魅せられてください。こういう映画って映画館の大スクリーンで観るのがベストです。

木村大作監督・皆様、すばらしい映画をありがとうございます!

(付記)
この記事は、映画『劔岳 点の記』のパンフレット(掲出写真上)・「頂に挑む男たちの軌跡 劔岳 点の記」(北日本新聞2009年4月29日付特集。掲出写真下)などを参考にしました。
by tiaokumura | 2009-06-13 13:32 | 富山 | Comments(6)
Commented by 哲ちゃん at 2009-06-14 14:07 x
『劔岳 点の記』は,もう20年くらい前に新田次郎の小説を読んで,たいへん感銘を受けました。だから,映画は観ないでおこうと思っていた。――小説の映画化されたのをいくつか観たことがあるけれど,ほとんどすべて,ガッカリさせられたから。
でも,貴兄が薦めてくれるなら,観ようかなぁ。
なお,柴崎芳太郎には娘さんがあり(冨美子さん),その方に僕は仕事でずいぶんお世話になりました。女子大で数学を学んだあと,教師を経て,結婚後,ご主人の仕事の関係で「旧満州」に。戦後は技術協力のため中国に残り,ご主人が亡くなられた後,二人のお子さんを抱えてずいぶんご苦労されたようです。1970年代に日本に帰国されたあと,ご縁があって,中国の数学事情を僕の携わっていた雑誌で何度も紹介していただきました。白鳥冨美子さんというお名前です。
Commented by tiaokumura at 2009-06-14 14:30
哲ちゃん、映画ぜひ観たほうがいい! もしつまらなかったら、映画料金、僕が返却する。シニア料金の1000円の場合だけど(爆)。
白鳥冨美子さん、へぇ~です。映画館にあった資料「それからの柴崎芳太郎」にご子息の芳博氏のことが出てくる。冨美子さんのお兄さんか弟さんか。そして、哲ちゃんはもうご存知かもしれないのだけど、芳太郎は1917年の中国出張でハルビン(!)やチチハルで測量に従事しているんですよ。後にシベリア・北海道・台湾も。「大日本帝国」との絡みは慎重に見極めなければならないのだろうけど、明治人の気骨を感じさせる芳太郎の生涯だよね。
ご興味あれば「それからの柴崎芳太郎」(瀬戸島政博)、コピーしてお送りします。
Commented by 哲ちゃん at 2009-06-15 06:09 x
了解。映画,かならず観ます。
「それからの柴崎芳太郎」は,ぜひ読みたい。お願いします。こちらからは,冨美子さんが『数学セミナー』書かれた自伝的な文章のコピーを送ります。
Commented by tiaokumura at 2009-06-15 07:47
哲ちゃん、コピー、今日送っておきます。元がカラーなのでちょっと見づらいところはご勘弁を。コピー以外の2点も含め、全てご返却無用です。
9月だったかに『カムイ外伝』が崔洋一監督、クドカン脚本で公開予定。松山某がカムイ役。この映画も観たい。
千葉市長選、31歳が当選なんだね。意気のいい若者がどんどん進出するのって、いいことですね。失敗は年長者がカヴァーすればいい。
Commented by kaguragawa at 2009-07-21 00:44
 きのう、『剱岳 点の記』を見てきました。私の方は映画の感想ではなく、些事をブログに書きつらねましたが。(拙ブログ、ある事情により引っ越し?を余儀なくされました。)「おくりびと」と「剱岳点の記」、不思議なことに山形県と富山県が不思議に交叉しましたね――柴崎芳太郎は、山形県出身。「それからの柴崎芳太郎」、読んでみたいですね。
Commented by tiaokumura at 2009-07-21 20:13
kaguragawaさま、コメントありがとうございます。
「滝廉太郎忌」で記事がストップしていたので気になってました。そういうご事情だったんですね。このブログは今のところそういうトラブルとは無縁ですが、知り合いのブログで似たようなトラブルがありました。
「それからのー」、いつか機会があったらお見せします。僕が観に行った「シアター大都会」に置いてありました。業界誌か学術誌に掲載されたものです。
もし急いでご覧になりたいようでしたら、
okmr.ta@sweet.ocn.ne.jp
にメールをお送り下さい。


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