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『泣きも笑いも自由自在 六代目三遊亭圓生 壱』(小学館)

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『サライ』責任編集
泣きも笑いも自由自在
六代目三遊亭圓生 壱

落語 昭和の名人決定版4
2009年3月3日
小学館
1190円+税

中島敦『名人伝』は僕の大好きな小説の一つです。読んだのはずいぶん遅く、大学生時代に学年は同じだが年齢は何歳か上の内田卿敏さん(理学部数学科)に出会い、彼は小林秀雄や中島敦や太宰治の熱狂的なファンで(いや、ファンどころか、自分の好きな作家を人生の指針にしているようなところがあった。うまく言えないのだけど、文学を自らの倫理としているような方だった)、そんな彼に練馬の深夜喫茶や江古田の彼の自宅などでたくさんの「文学」を勧められた中の一つが中島敦『名人伝』。この間ちくま文庫版で読み返してみて、ストーリー展開も硬質な文体も語彙の選択も超一級な作品だと、思いを新たにした。中島敦(1909-42)、『山月記』も『李陵』も名作。中島がせめて50歳まで生きていたら、戦後文学は別の潮流を生んでいたことでしょうね。
名人ライバル」ってことで乱暴に括ると、子どもの頃、栃若では若乃花、升田・大山では升田幸三、坂田・呉では呉清源、そして圓生・志ん生では三遊亭圓生が好きでした。好きな理由は何だったんだろう、今ではもう忘れましたが(子供にとっての「英雄」だったか)、まぁ好きになるのに理由なんていらないのかも。ただ何となく若乃花・升田・呉・圓生には(対手にない)共通する魅力・生き方の共通点があるようにも思う。
さて、「名人」。現在は名人と呼ばれる人はいるんでしょうか。イチローあたりが現代の「名人」なのかもしれませんね。

六代目三遊亭圓生。明治33(1900)年大阪生まれ。4歳で母と上京、5歳のとき子供義太夫で初高座。明治42(1909)、9歳で落語家に。橘家圓童(最初から二つ目だった)。ところで今年は中島敦生誕百年(松本清張・埴谷雄高・大岡昇平そして太宰治も)。つまり中島や太宰が生まれた年に圓生は落語家デビューしてるんですね。その後、圓好→圓窓→圓蔵を経て昭和16年、41歳で六代目三遊亭圓生を襲名。ただ人気のほうはパッとしなかった。器用貧乏だったのかもしれませんね。太平洋アジア戦争(当時は「大東亜戦争」と言った)時に古今亭志ん生とともに満州へ渡り慰問興行。敗戦を彼の地で迎える。翌昭和22年3月帰国。あるいは「戦争体験」が圓生を大きくしたのか、昭和30年代あたりから桂文楽・志ん生と肩を並べるようになる。65歳で落語協会会長、72歳同顧問、72歳で落語家初の御前口演(「お神酒徳利」)。真打の大量昇進に反対して落語協会を脱退し落語三遊協会を立ち上げたのが77歳のとき。昭和54年9月3日、「桜鯛」を演じた直後に倒れ逝去。奇しくもその日は79歳の誕生日であった。(この段落、事実関係は掲出書に拠る)

芸人ってぇのは苦労して当たり前なのでしょうから低級な苦労話の類には興味がありませんが、本書には圓生の人となりを物語るエピソードがいくつも物語られています。抜群のネタ記憶力、天才ピカソが膨大なデッサンをこなしたのにも通ずる名人圓生の稽古量、弟子への稽古ぶり、虚実皮膜とも言うべき仕種の演じ方、志ん生や文楽との関係、60・70歳を超えても探求し進化し続ける芸。本書の記述、
六代目三遊亭圓生は「本業も趣味も落語」という稀代の芸の鬼だった。(p.3)
まさにその通りなんでしょうね。

TBS系「タイガー&ドラゴン」(2005年)あたりもきっかけになった落語ブーム。僕、あのドラマにハマってました(照)。脚本は宮藤官九郎、出演は長瀬智也・岡田准一・伊東美咲・西田敏行ら、主題歌(♪俺の話を聞けー)はクレイジーケンバンド。春風亭昇太が「林家亭どん吉」で出てました。
昨今の「落語ブーム」は否定すべきでないでしょうが、大学落研出身の落語家が多すぎて、私のような者には「これは」って噺家はいません。話芸ってよりギャグ芸みたいなんじゃねぇ。せめて志ん朝が長生きしてくれていれば別なんでしょうが、「名人」は西の米朝・東の談志で絶滅なのかもしれませんねぇ。名人がいない時代(名人が生まれない時代)は同時代人にとってゼッタイ不幸でしょうね。

本書は奥付には「2009年3月3日」となっていますが、実際にはその2週間前に店頭に並んでいました。20ページ弱の冊子とCD。CDには「火事息子」(音源は昭和35年2月8日・ラジオ京都ほか放送)、「百川」(昭和31年7月17日・ラジオ東京放送)、「豊竹屋」(昭和39年1月1日・TBSラジオ放送)が収録。
この「落語 昭和の名人 決定版」シリーズは隔週刊で、圓生・志ん朝・志ん生・小さん・文楽・金馬・正蔵(彦六)・馬生の8人には各2巻ずつ充てられ、他は柳好・松鶴・可楽・柳枝・小南・三木助が各1巻、1巻に2人ないし3人で金語楼・痴楽ら11人。総計25人全26巻。
by tiaokumura | 2009-03-08 20:01 | | Comments(0)


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