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「来た、来た、来た~」^^な本3冊

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松岡正剛
白川静 漢字の世界観
2008年11月14日初版第1刷
平凡社(平凡社新書)
780円+税
石渡嶺司・大沢仁
就活のバカヤロー 企業・大学・学生が演じる茶番劇
2008年11月20日初版1刷
光文社(光文社新書)
820円+税
八木福次郎
新編 古本屋の手帖
2008年10月10日初版第1刷
平凡社(平凡社ライブラリー)
1500円+税
松岡正剛『白川静 漢字の世界観』、遂になのかやっとなのか、ネット風に言うと^^「来た、来た、来た~」な本です。
博覧強記の著者が”巨知”白川静に挑み、その見取り図を示した初の入門書
ってキャッチコピー、まさにその通り。セイゴウ先生は
本書は白川静についての最初の一般書であり、ささやかな評伝であり、白川世界観への初めての招待状になるはずです(p.16)
と実に控え目におっしゃってますが、とんでもない、待望の書。歌舞伎なら大向こうから「待ってました~、セイゴウ屋」とでも掛け声がかかるところ^^。こういう本、ベストセラーになってほしいですよね。丸善や大学生協あたりでトップ1になっているといいのですが。もしそうでなかったら、日本文化、先行き長くないでしょうね。
恥ずかしい告白になるのですが、大学生時代はTA先生が正統で白川先生は異端だと思っていました。でもあれから約40年、完全に白黒はついたみたい。本書にも”業界事件”ってことでそのあたり触れられています(p.116)。
本書で初めて知ったのですが、人麻呂の「東の野に炎の」の白川解釈。それによると、この名歌は政治上の理由によって詠まれるべくして詠まれた歌だったのです。松岡は白川『初期万葉論』で白川説を読んだときのことを「もっとも衝撃をうけた」こととして紹介しています(p.164)。東に太陽が昇り西に月が傾く日、それは太陽暦で言えば「西暦692年12月31日午前5時50分ころ」(月日はその1週間前後も含む)。詳しくは引用しませんがこのあたりの展開、上質な推理小説を読むような感じです。更にもっと驚愕すべきことがあるのですが、それは読者のお楽しみにとっておいて、結論だけ申すと「人麻呂の歌の意味が一変」(p.166)するのです。「人麻呂『安騎野の冬猟歌』の大胆な解読」の節(pp.157-166)、大学生の頃に梅原猛の聖徳太子論を読んだときと同じような震えが生じました。
白川静(1910-2006)は橋本進吉と同じ福井県出身(白川は福井市、橋本は敦賀市)で、山田孝雄とほぼ同じく独学の人。現時点から立ち返ると「最晩年」ということになってしまうのですが、90歳をこえての「文字講話」は、松岡が言う「白川さんが余力のすべてをふりしぼって提案された東洋学の最終的なマトリックス」(p.103)だったのでしょうね。ビデオや書籍で残っているそうですが、無理してでもオンタイムで受講しておけばよかったと後悔しきりです。
白川と橋本左内・橘曙覧、「呪能」や「狂」、声・言葉・文字などまだまだいろいろあるのですが、この辺りまでに。なお、本書のもとはNHKTV番組とそのテキストだそうです。

就職活動=就活=シューカツ、こちらについても、「来た、来た、来た~」な本が登場しました。石渡嶺司・大沢仁共著『就活のバカヤロー 企業・大学・学生が演じる茶番劇』。「就活のバカヤロー」「茶番劇」ですもんね。「はじめに」の中でなぜ「バカヤロー」で「茶番劇」かが「焼肉の生焼け理論」で説明されています。
石田衣良の小説『シューカツ!』を読んでて「水越千春になんで内定打ってやらんのじゃい」って義憤を感じた。採用側の論理、確かにそれはそれで「ごもっとも」なのですが、シューカツやってる学生たち、あまりにもかわいそう。SPIでは高いスコア取らなくてもいいいいと言われても、それが足切りに使われると聞かされれば対策を立てなければならない。エントリーシート、なんとか採用担当者の目に留まってもらいたく、あれこれ工夫工夫工夫。マニュアルの裏の裏の裏を深読みして準備しなきゃならない。
本書を読むと、み~んな実はうんざりしてるんだなぁと思う。喜んでいるのは就職情報誌だけなんでしょうね。各章のタイトルをたどるだけで「構図」が見えてきます。曰く「就活生はイタすぎる」「大学にとって『就活はいい迷惑』」「企業の『採活』真相はこうだ」「インターンなんてやりたくない」「マッチポンプで儲ける就職情報会社」。
近い将来(いや、もうなってるかな?)、「学生の将来のために」と大学側は1年次からキャリアプラニングのための科目を設け、就職試験はもとより各種資格検定対策に力を入れることでしょうね。受験生もそういう大学志向を強める。企業側は1年生から囲い込みたくなってくる。「それのどこが悪い」ってご時世です。僕が「リッチな生活=いい生活←いい就職←いい大学←いい高校←いい中学←いい小学校←いい幼稚園←いい出産←いい胎教←いい受胎日←いい受胎のためのいいSEX^^←いい配偶者」とでも茶化したくなる「幸福のための逆算ストレートコース」と似たようなことが「就活」にも起きているのかもしれません。
「いち抜~けた」って学生・企業・大学がどんどん増えてやがて「量」が「質」に転換して、今みたいな「就活」がなくなる日が来るんでしょうかねぇ。う~ん、なんとも僕には断言できません。「抜け駆け」はあっても「いち抜~けた」は困難でしょうね。

今もそうでしょうが、僕の東京時代には神保町・高田馬場が古本屋が多くあり年に何回か訪れ、他には池袋や中央線沿線にも通った。どんな業界にも「生き字引」的な方はおられるもので、『新編 古本屋の手帖』八木福次郎は古本世界のオーソリティー。
僕は国文専攻だったので、著者と木村毅・勝本清一郎・柳田泉・野田宇太郎・岡野他家夫・西田長寿といった方々(僕の学生時代はご存命だった方々である)との交流を興味深く読んだ。どんな業界も窮極は「人と人との出会い」なのだと思う。本書には上記の方々以外に、柴田宵曲・森銑三・恩地孝四郎・長谷川如是閑・江戸川乱歩・野村胡堂・小金井喜美子・正岡容・永井荷風・柳田国男・佐佐木信綱・河井酔茗・高見順・新村出・川上澄生・津田清楓・宮尾しげを・武井武雄・庄司浅水・寿岳文章らも登場します。1915年明石市生まれの著者の人生の豊かさが羨ましい限りです。もちろん著者の苦労たるや私なんぞが窺いしれぬくらい大変だったことでしょう。
八木翁はそのご高名はかねてより知っていましたが、ご著書を読むのは本書が初めて。本書のもとは東京堂出版『古本屋の手帖』『古本便利帖』『古本屋の回想』。本ライブラリー版の解説は出久根達郎
富山の古本屋状況は悲惨(泣)。家の近くに割と大きい古本屋がかつてできて喜んだのですが、わずか数年で店じまい。その後、別の店が何回か代代わりして、今は、な・な~んと、アダルト系DVDやグッズ類のお店になっている(入ったことがないので正確なところはわかりませんが、外観から判断してきっとそういうお店)。市電西町電停近くにあった、これは僕が興味を持つ本がけっこうあったお店も何年か前に廃業。そうかと思うと先日たまたま行ったショッピングセンター、ちょうど文庫本に特化した古本市をやってた。覗いてみてビックリ。僕が持ってる文庫本のあれやこれや、かなりいい値がついている。ひょっとしてボク一儲けできるかも、などと思いました(爆)。

以上3冊、僕が知らなかっただけかもしれませんが、どれも「時宜を得た出版」「出るべくして出た本」だなあと思います。
by tiaokumura | 2008-11-28 21:52 | | Comments(2)
Commented by 哲ちゃん at 2008-12-03 12:50 x
池袋で飲んだとき推薦した本は,
 城戸久枝著『あの戦争から遠く離れて』情報センター出版局
でした。副題に「私につながる歴史をたどる旅」とあります。中国を舞台にしたノンフィクション。『時が滲む朝』の直後に読んだのだけれど,こちらの印象のほうが圧倒的だった。
(「カナン」のところで書くべきコメントですが,ここに移しました)
Commented by tiaokumura at 2008-12-03 20:29
哲ちゃん、早速のお返事ありがとうございました。そうです、そうです、その本その本。言われて思い出しました(照)。今月の注文リストに入れておきます。
師走に入りお忙しい日々と思います。お互い体にも気をつけ、新しい年が迎えられるよう、1日1日を過ごしましょう。
また折を見てのコメント、よろしくお願いします。


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