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卒業式(2)理事長式辞

33名の皆さん、本日はおめでとうございます。
富山国際学院の13名の教員を代表して、一言、お祝いの言葉を述べさせていただきます。

皆さんが富山で過ごした1年、1年半、あるいは2年はどうだったでしょうか。
昨日の夜、皆さんの卒業試験の作文を読ませていただきました。皆さんの作文の中には、「家族」や「友達」という言葉もよく出てきますが、一番よく出てきた言葉は「日本語」です。では、2番目は何でしょう。「料理」、です。では3番目は? 「お金」、です。
「日本語」「料理」「お金」の3つのキーワードから浮かび上がる皆さんの富山での生活、それは「自立」、つまり、何もかも自分でしなければならない、ということです。
母国にいた時の皆さんはどうだったでしょうか。
家族や友達と母語で話し、親が作ってくれた料理を食べ、親が働いたお金で学校に通い、親が用意した服を着て、ときどき家族旅行にも行って・・・
皆さんの多くがそういう毎日を送っておられたことでしょう。
それが日本ではどうでしょう。
聞こえてくるのは日本語ばかり。いくら憧れて来た日本だったとはいえ、何もかも自分でしなければならない富山での毎日。
しょっちゅう変わる天気、雪が降り寒い冬、蒸し暑い夏。
やっと見つけたバイトなのに、日本語がわからないために文句ばっか言われる。
バイトが終わって自分の部屋にもどっても、迎える人はなく灯りもない。
時給750円で週20時間働いて1万5千円。でもその1万5千円では家賃のやっと半分にしかならない。
いろんな国の出身なのに日本ではみ~んなまとめて「外国人」と呼ばれる。
日本人は私の国の文化も歴史も全然知らないし、興味も持たない。
私は「日本語」を勉強しに来たのであって、「日本人」になりに来たんじゃない。
たまに母国のことがテレビのニュースに出てきても、それはほとんど悪いニュース。

私には皆さんのような留学生活の経験がないのですが、1年あるいは1年半そして2年と、大変なご苦労があったことと思います。
でも今こうして皆さんは、私の話がわかるまでに「日本語」が上達し、「料理」もまあまあ作れるようになり、お金の大切さもお金の怖さも知りました。
母国で想像していたのとは段違いな厳しい現実を乗り越え、今こうして喜びに包まれた顔で卒業式に臨んでおられるのです。
ここまで辿り着くまでに、皆さんのご家族や友人の支えがあったことを忘れないでください。アルバイトやアパートでお世話になった方々、課外活動や国際交流イベントで出会った人々にも感謝してください。私たち富山国際学院の教師も少しは皆さんの成長に役立てたかと思います。
でも、一番がんばったのは皆さんご自身です。自分自身の強い意志と努力の結果なのです。そのことを大いに誇りに思ってください。
これから先、もっともっと厳しい現実が待っています。夢や希望は、誰でも抱くことはできますが、それを実現するには今以上に強い意志と努力が必要です。

「人それぞれに花あり」
という言葉があります。「あり」というのは「ある」の古い日本語の辞書形です。
「人それぞれに花あり」
人はだれでもそれぞれに素晴らしいところを持っている、という意味です。
漢字がなかなか覚えられなかった人
頭の中には難しい文法が入っていても、会話が上手ではなかった人
交通事故に遭って勉強がうまくいかなかった人
学費がなかなか払えなかった人
恋人と別れなければならなかった人
出席率が悪かった人
バイト先で差別を受け悔しい思いをした人
希望する大学に合格できなくて悔し涙を流した人
この1年・1年半あるいは2年はいいこと・楽しいことばかりではなかったことでしょう。
でも、どんな人にも「花」があります。今はまだつぼみのままかもしれませんが必ず「花」があります。その花を咲かせられるのは、自分自身の強い意志と努力です。

私たち13人の教員は、
皆さんにここ富山国際学院で出会うことができたこと、皆さんの教師だったことを誇りに思い、
皆さんに心から「ありがとう」と言いたい。
皆さんは今日この学校を巣立ち、次の人生に向かう。
33名の学生と13名の教員がこうして同じ場所ににいられるのはあと2時間くらい。
もうすぐ皆さんと別れなければならない。
これからの人生でつらいこと・嫌なこと・苦しいことがあったときは、日本の富山というところに、皆さんが大きな「花」を咲かせるのを心待ちにしている私たちがいることを思い出してください。

皆さん、おめでとう、ありがとう、そして、さようなら。

   2008年3月14日
   特定非営利活動法人・富山国際学院 理事長  奥村隆信
by tiaokumura | 2008-03-14 10:35 | 日本語教育 | Comments(0)


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