鈴木孝夫・田中克彦『対論 言語学が輝いていた時代』(岩波書店)

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鈴木孝夫(1926-。慶應義塾大学名誉教授)
田中克彦(1934-。一橋大学名誉教授)
対論 言語学が輝いていた時代
岩波書店
2008年1月29日 第1刷
2200円+税

以前にこのブログに書いたかもしれないが、東京教育大の確か2年生のときの小松英雄助教授(当時)の国語学演習。出席簿順に4人で準備する形式で「上代特殊仮名遣い」がテーマだった。東京育ちの女子2人と秋田出身の男そして富山出身の僕の4人のグループ。秋田男と僕は前日、秋田男の雑司が谷にあったアパートで、演習準備なんかすっぽかして雨音を聞きながら埴谷雄高やら吉本隆明やら秋田の「たいまつ」(今で言うミニコミ紙)の話をして徹夜した。演習発表本番、女子2人はもちろんきちんと準備してきていたが、男2人は、そうでなくても辛らつな小松助教授にこてんぱんの目にあった。女子の1人は、20年ほど前に知ったことだが卒業後は国立国語研究所に就職、同研究所の「ことばシリーズ」の担当者に彼女の名前を発見した。去年、富山大学言語学演習準備で手にしたある「講座」の1巻に野田尚史先生と並んで彼女の名前「浅松絢子」を見つけた。彼女がその執筆後何年かして亡くなったということも何かで知った。才媛であった。
小松先生の演習準備で、橋本進吉・石塚龍麿・有坂秀世・大野晋なども読んだ。有坂は『広辞苑 第六版』にも出ているが、40代にして夭折した天才国語学者。本書の目次にその名を見つけていささかビックリ。同書p.20の田中克彦の発言に、金田一京助の有坂追悼文のことが出てくる。金田一京助(春彦の父、秀穂の祖父)は服部四郎も有坂も指導してた。そして服部には甲、有坂には乙の評価をつけた。で、有坂の追悼文に金田一は、田中の発言から引用すると、
服部君のはほんとに水も漏らさぬ精密さで書かれた論文だけど、有坂君のは緻密というよりはすごい透徹力がある。それを自分はそのときに気がつかなかった、有坂君、許したまえなどと書いてあるんですよ。私は人を見る目がなかったと。(同書p.20より引用)
「学者の良心」を物語るエピソードですね。
鈴木孝夫の現在の「言語学」の枠組みをを批判した発言、
外国で「いけない」と言ったから研究しない、言語学という枠の中から外れるから研究しないという考えは、私の体質にないわけ。好きな女がいれば、それこそ女の部屋に窓からもぐり込もうと、旦那がいようと、その目をかすめてとかいうのがあるわけでしょう。旦那がいるからやめた、何とかだからやめたというのは、情熱が足りないわけ。(同書p.215より引用)
っての、若い言語学徒には逆の意味で刺激的過ぎる発言だけど^^、おもしろい。

そんなわけで、この本、言語学界の裏話満載(それで価値がある本では、もちろん、ないけど)で、ソシュール、チョムスキーはもちろん、井筒俊彦、服部四郎、亀井孝、時枝誠記、村山七郎、河野六郎、柴田武などなど登場人物もオールキャスト^^。話題も記述言語学、意味論、漢字論、エスペラント、英語教育など多彩。
言語学に関心がある方も、そうじゃない方にもお薦めの本。

それにしても天下の岩波もずいぶん変わったというか、オレンジをベースにした装丁(佐藤篤司)、帯の煽情的な^^キャッチコピー(「言語学の異種格闘技! チョムスキー、ソシュール、服部四郎らを俎上に、言語学の最前線と切り結んできた二人の議論が炸裂する。」)。かつての「岩波文化人」が見たら目をむきそう(核爆)。

タイトルの「言語学が輝いていた時代」、確かにこの本を読んでいると「輝いていたんだなぁ」と思う。逆に言うと、今、言語学は輝いていない、ってことになる。
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by tiaokumura | 2008-02-07 18:19 | | Comments(4)
Commented by 金田 at 2008-02-08 09:42 x
チョムスキーの名前を目にし、思わず懐かしい気分になりました。学生の頃手にしたものの、難解さに付いていけず、途中で投げ出してしまいました。言語学は、結局は人間学なのだとおもいます。大学時代比較言語論を選択しましたが、感情表現や喜怒哀楽を表す言語に、音韻論的に驚くくらいの共通点が世界言語にはあります。やればやるほど際限がない学問のように私には思われ頓挫してしまいましたが、機会があればまた読みなおそうかなと思います。
Commented by tiaokumura at 2008-02-09 16:30
金田さま、コメントありがとうございました。
そうですか、チョムスキー。僕の学生時代はまだ「チョムスキー」は出てなかったかも(←古すぎ~^^)。ソシュールは小林英夫訳で岩波から出てました。「言語学は・・・人間学」って確かにそうです。ただアカデミズムではそういうの嫌うらしく、鈴木孝夫、そんなアカデミズムも批判してます。
話はズレるのですが、金田さんや僕なんかが昔読んで「難解」だったのは、「翻訳」のせいもあったんじゃないかと最近思います。「新訳」ブーム、そういう点でいいことなんでしょうね。ヘーゲルの「新訳」、ヒマができたら読んでみたい。
Commented by ほしの at 2008-02-13 08:18 x
学生時代、サークルやデートに明け暮れる一方で、一人でいる時は、田中克彦の『ことばと国家』や鈴木孝夫の『ことばと文化』などをむさぼり読んでいました。
私のような凡人が、漠然と頭の中にもっている抽象的なことばとは何かということについて、明確に記述されたものを目にし、ゾクゾクしながら読んだ記憶があります。
この本、すぐにネット注文しました!
Commented by tiaokumura at 2008-02-17 23:25
ほしの様、コメントありがとうございます。僕の場合は「デートに明け暮れ」ってのなかったのでチョー羨ましい(爆)。
鈴木孝夫は何冊か読みましたが、田中克彦はクセがありそうで(ホントはそうじゃないんでしょうけど)2冊だけかなぁ。
『対論』、実にエキサイティングな本ですよね。
吸収はもう暖かくなりつつありますか。富山はまだ雪の日もときどき。


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