田中冬二(たなか・ふゆじ1894-1980)は、手元の『広辞苑 第六版』(岩波書店)にも『大辞林 第三版』(三省堂)にもエントリーされていない。マイナーな詩人であろうか。だが、富山県民ならほとんどが知っている詩人である。福島県生まれではあるが郷土詩人。父が富山出身であり、冬二も父の故郷・生地(いくじ)、祖父の思い出がある生地を愛した。冬二の代表詩と言えば次の2編であろうか。
「
ふるさとにて」
ほしがれひをやくにほひがする/ふるさとのさびしいひるめし時だ//板屋根に/石をのせた家々/ほそぼそと ほしがれひをやくにほひがする/ふるさとのさびしいひるめし時だ//がらんとしたしろい街道を/山の雪売りが ひとりあるいてゐる///少年の日郷土越中にて
「
くずの花」
ぢぢいとばばあが/だまつて湯にはいつている/山の湯のくずの花/山の湯のくずの花
引用、現代仮名遣いと旧仮名遣いが交じっていますが、ご容赦を。「ふるさとにて」は日本酒・銀盤のTVCMでも流された。父方の実家が営む生地温泉「たなかや」には資料室と詩碑も。
山の湯の詩情(ポエジー)-田中冬二(ふゆじ)へのいざない
高志の国文学館
~12月21日(月)
公式サイト:
こちら
担当学芸員によるギャラリートークがあるということで、
11月22日(日)、三連休の中日、同展に行ってきた。女性の学芸員、一生懸命なんでしょうね、聴衆わずか10人弱にも関わらず、当初予定の30分を大幅に超える約1時間の熱弁。ただ、それなら途中で「時間を超えますが」と弁明があったほうがよかったかも。30分のつもりの人には「ありがた迷惑」だったかもしれない^^。幸い、苦情はなく、最後は聞き手からの感謝と拍手で終わった。
同展、「山の湯へのいざない」「山の湯のくずの花-田中冬二と温泉」「渓谷の湯と文人たち-宇奈月温泉」「鳥の声 川の瀬音を 聴きながら-山旅の温泉」の構成。田部重治・小杉放菴・与謝野鉄幹・西条八十らも出てくる。与謝野晶子は宇奈月温泉(「延対寺荘」に逗留)で「いただきに 虹塗るほどの紅葉おく 黒部の渓の梵鐘の山」と詠む。ちょうど今頃の景色なんでしょうね。
冬二と温泉って、決して強引な組み合わせではない。銀行員だった彼、上諏訪支店長時代などに多くの信州の名湯・秘湯を訪れ、富山県内以外にも山梨・群馬など探湯。
同展展示の1738年の文献によると、越中の温泉として「山田 大牧 小川 立山」が紹介されている。宇奈月の開湯はもっと後の時代になる。
本展、12月19日(土)の文学講座も受講しようと思っています。
抒情詩人・田中冬二って、字、けっこうひどい(激爆)。悪筆家の自分、ちょっと「ホッ」。ノートなどで詩の推敲跡も辿れるのですが、言葉をそぎ落とす格闘のあとが生々しい。