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角川春樹「夕鶴の家」 「辺見じゅんの世界」展

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(8月11日朝・記)
私のような平凡人と比べると何万倍も波瀾万丈な人生でしょうね、角川春樹(かどかわ・はるき1942-)は。源義(げんよし1917-75)の長男、辺見じゅん(へんみ・じゅん1939-2011)の弟、歴彦(つぐひこ1943-)の兄。角川春樹ー國學院大學生時代の武勇伝、角川書店での『ある愛の詩』『いちご白書』の新しい時代を告げるヒット連発、4回勘当されたという父との葛藤、華々しい恋愛歴、カヌーや「野生号」での冒険家、横溝正史のリバイバル、メディアミックスによる(「見てから読むか、読んでから見るか」)映画プロデュース、中上健次・村上龍らの育成、コカインによる逮捕・収監、歴彦との確執、角川春樹事務所の創立などなど。
8月10日(土)、角川春樹の講演を聞いてきた。富山県教育文化会館。初めに中西進(高志の国文学館・館長)の挨拶。10分と長いものだったが、飽きさせない名スピーチだった。春樹、登壇。演題は「夕鶴の家」、約50分。春樹は辺見の命日を「夕鶴忌」と命名。
大津皇子と大伯皇女の話から始める。辺見と春樹の関係をその二人の関係にオーヴァーラップさせる。辺見の歌集から引用しつつ、姉の想いを伝える。父の敗戦時の短歌は「向日葵は陽にそむきつつ咲きにけり国敗れたるをたれと歎かむ」。これが源義の「歌の別れ」であった。これを踏まえた辺見の歌は「この国の敗れたる日の歎きのみとどめて父の歌のわかれよ」(処女歌集『雪の座』)。ほかにも父を詠んだ歌としては、「旅のゆめ花火のごとく胸ひらき海境(うなさか)こゆる父のたてがみ」「屋上の夕光(ゆふかげ)のなか木の椅子は月呼ばんとして揺れていたりき」(源義「月の人のひとりとならむ車椅子」を踏む)「遠山にきれぎれの虹つなぎつつわが父の座に雪は降りつむ」など。
『雪の座』から第6歌集(遺集)『天涯の紺』まで「」を詠んだ名歌あまた。福島泰樹が春樹に指摘したそうだが、その弟は「春樹」だけで、もう一人の「弟」の歴彦は出てこないそうです。
一枝の櫻見せむと鉄格子へだてて逢いしはおとうとなりき(『幻花』)
四分の一の胃の腑のおとうとよ月光を容(い)れし部屋に微眠(まどろ)む(『秘色』)
はとりわけ秀歌でしょうね。
春樹は「先生」と呼ぶのは三人だけだそうです。山本健吉(やまもと・けんきち1907-88)・瀬島龍三(せじま・りゅうぞう1911-2007)・森澄男(もり・すみお1919-2010)。
「タブー」だったのかもしれませんが、辺見の熱海での恋人との人生も紹介された。その短歌の一首。「ろんろんとこゑの酔ひゆくきみなれば誰もだれも眠つてはならぬ」。プッチーニの『トゥーランドット』のアリアを踏まえているんでしょうね、ユーモアと愛が感じられる歌です。

講演のあと、高志(こし)の国文学館へ移動。ここは辺見が初代館長を依頼されていた文学館。2011年9月21日の彼女の死によって実現できなかった。
開館一周年特別展 辺見じゅんの世界
前期「辺見じゅんが見た風土」 ~9月23日
後期「辺見じゅんが語り継ぐ父たちの世紀」 9月27日~11月11日

角川春樹「夕鶴の家」はこの展覧会の関連イベントの一つ。
前期展は、序章・第1章・第2章の構成。
2011年9月のカレンダーが展示されていて、そこに書き込まれた予定が傷ましい。
by tiaokumura | 2013-08-10 14:12 | 富山 | Comments(0)


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