(5月21日朝・記)
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タピスリ」なるものを知ったのは、大学2年生頃に読んだ
辻邦生『夏の砦』であった。ヒロイン支倉冬子は「グスタフ侯のタピスリ」の研究で北欧を訪れやがて消息を絶つ。長編小説の多い辻の初期の傑作。村上春樹には「喪失と回復(再生)」がテーマの作品がいくつかあると思うが、辻の『夏の砦』は喪失のみで回復のない小説だっただろうか。今手元にないので確認できない。畏友・哲ちゃんにいただいたその本は、今どこにいったのだろう。もう処分してしまったかも・・・。セロファン紙?で包まれ箱入りだった(1966年、河出書房?刊)。
今回の東京行きの最初の目的には入れてなかったのだが、会場が「ミュシャ展」と同じ六本木ということ、めったに観られない名作だということで、スケジュールに入れたのが「
貴婦人と一角獣展」。
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ミュシャ展」の森アーツセンターギャラリーを出て会場の国立新美術館を目指すも、悲しいかな、方向音痴^^の身にはよくわからない。コンビニに入って道を聞く。中国人女性スタッフが地図も広げて調べてくれるも不明。お礼を言って店を出る。流しのタクシーを止め「近場ですけど」と前置きして目的地を告げる。「乗車拒否」されるかもと内心不安だったが、初老の運転手氏、快く乗せてくれた。
フランス国立クリュニー中世美術館蔵
貴婦人と一角獣 展
~7月15日
国立新美術館
国立新美術館は初めてではない。地下鉄だと、日比谷線・六本木より千代田線・乃木坂のほうが近いか。
展覧会は、入ったすぐの部屋に6面のタペストリー(tapestry。フランス語ではtapisserie)『
貴婦人と一角獣』(1500年ごろの制作)の展示。高さおよそ3~5m、幅およそ3~5m、圧倒的な迫力で迫ってくる。キリスト教(『聖書』)あるいは西洋思想(ギリシャ神話・ローマ神話など)に通じていればさまざまに読みとれるのだろうが、残念ながらその方面の知識はほとんど皆無なので、ただただ呆然と見入るばかり。6面の内5面はそれぞれ「触覚」「味覚」「嗅覚」「聴覚」「視覚」を寓意し、残りの1面は「我が唯一の望みMon seul désir」で、それが示すものが「愛」なのか「知性」「結婚」なのか諸説あるそうです。本来は門外不出なのでしょうが、今回は1974年アメリカ以来の貸し出し、もちろん日本初公開。
本展覧会では、他に『貴婦人~』以外のタピスリー、時禱書・水差し・指輪なども。
アップした
写真は会場外の大型パネル。『貴婦人と一角獣』が入っています。
帰宅して本棚にある
辻佐保子『辻邦生のために』(2002年、新潮社)を開いたら、「私の好きな美術館」の「バイユーのマティルド公妃美術館」にバイユー・タピスリが紹介されてました(pp155-157)。辻邦生(つじ・くにお1925-99)も辻佐保子(つじ・さほこ1930-2011)も今は故人。僕は2人のうち辻佐保子(美術史家)のほうを先に知りました。