井波律子『中国名詩集』(岩波書店)

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井波律子(いなみ・りつこ1944-。国際日本文化研究センター名誉教授)
『中国名詩集』
2010年12月15日 第1刷
岩波書店
2800円+税

高橋和巳(たかはし・かずみ1931-71)を通じて『詩経』の「詩は志の之くところ」(詩者志之所也)を知った。高橋からは李商隠も知った。40年以上前のことである。
本書、膨大な中国詩からのアンソロジー。現在このような試みができるのは井波律子を措いて他にはいないでしょうね。原詩が読み解け、中国詩史(少なくとも国風から元・明・清まで)に精通し、詩を生んだ風土も押さえることができ、一方で日本の中国詩受容(『万葉集』『和漢朗詠集』はもとより『源氏物語』なども)を視野に収めておかなければならない。もちろん「詩がわかる」人間でなければならない。
本書の編集方針は
・・・まず「春夏秋冬」から「英雄の歌」まで、11の大きなカテゴリーを立てた上で、一つ一つの大カテゴリーをさらにいくつかの小カテゴリーに分類し・・・あてはまる詩篇をどんどんピックアップしてゆき、そのなかからもっともすぐれた作品、魅力的な作品を選定していった。(pp.ⅳ-ⅴ)
劉邦から毛沢東まで137首所収。
本書pp.ⅰ-ⅳの中国詩通史は私のような初学者に便利。
索引は、「標題句索引」(ここで「標題句」とは井波が詩中から抜き出した代表句であるようだ。初句とは限らない。例えば王維『送元二使安西』の標題句は「西のかた陽関を出づれば 故人無からん」)、「詩題索引」、「詩人別詩題索引」、「詩句索引」(前掲『送元二使安西』で言えば「謂城の朝雨~」「客舎~」「君に勧む~」「西のかた~」で引ける)と実に丁寧。「作者の生没年、字号、本籍地一覧」「時代別作者一覧」「関連地図」もある。

僕にとって李賀はゼッタイ『陳商に贈る』(「長安に男児有り 二十にして心已に朽ちたり」)なのですが、井波は『馬詩』を選んでいます(pp.218-221)。
最近墓が見つかったようだと言われる曹操は『歩出夏門行』。曹操は『三国志演義』ではすっかりヒール役を割り当てられているようですが、文武両道・軍事と文学に通じた大人物だったんでしょうね。本書に収められた曹操から一部引用。
志在千里 烈士暮年 壮心不已(p.382)
「ときに曹操53歳」(p.385)。

井波律子は富山県高岡市生まれ。僕より2年年上。高校まで富山だったんでしょうか。地元紙でも名前を見ることがあります。富山在住の僕、いつか講演を聞きに行くチャンスがあるかもしれませんね。井波は現在の岩波文化人の一人でしょうね、岩波書店から何冊も刊行している。

本書で初めて知った詩の中では詹義(生没年不詳。南宋)の「・・・老来 方に一青衫を得たり 佳人 我に問う 年は多少なるや 五十年前 二十三」(p.194)がいい。
本書で毛沢東は『沁園春・雪』(「数風流人物 還看今朝」)が所収。今の中国共産党指導部には詩をよくする方もおられるのでしょうか。
中国人が最も好きな外国はアメリカで最も嫌いな外国は日本でしょうね。同様に日本人が最も好きな外国はアメリカで最も嫌いな外国は中国でしょうね。そんな「今」ですが、日本で刊行された本書に多くの愛読者があること、中国人たちにもっともっと知っていただきたい。僕たち日本人が中国で日本発のコミック・アニメ・ゲームが人気があることを知っている程度には。
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by tiaokumura | 2011-01-09 19:56 | | Comments(2)
Commented by rabbit at 2011-01-10 21:15 x
日本人が最も好きな外国? 以前は確かにアメリカだったかもしれませんが、アメリカが嫌いになったわけではないのですが、・・・
確かにアメリカは日本にとって「頼りにすべき国」です。
でも、好き、嫌いになると、最近では日本人に多種多様な価値観が出てきていて、ある種の方は韓国であったり、ある種の方はイタリアだったりで、また年齢層でも違ってくるように思います。
そして、中国人にとって最も嫌いな国が日本とすると、これは何とかしなければならないですね。少なくとも中国政府が言っていることは変だぞと、思ってくれるメッセージは送り続ける必要がありますね。それは日本人の中高年から若い人達に対してもですが。
Commented by tiaokumura at 2011-01-11 19:28
rabbitさま、確かに韓国・イタリア・フランス・ブラジルなどは一定以上の層に好感度視されているでしょうが、年代・性別・職業など総合すると1位は今でもアメリカじゃないでしょうか、たとえ相対的には%が落ちていても。
中国にとって日本はone of themになったんでしょうね。日本だけじゃなくアメリカ以外のほとんどの国がそうなんでしょうけど。周恩来・鄧小平時代の対日観が続いていると思ったら大間違いでしょうね。
中国についてはまた折を見て投稿しようと思っております。
当ブログ、今後ともよろしくお願いいたします。


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