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セドリック・クラピッシュ監督『PARIS』(2008)を観た

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ライナー・マリア・リルケ(Rainer Maria Rilke1875-1926)の小説『マルテの手記』は、以下のように始まる。
人々は生きるためにみんなここへやってくるらしい。しかし僕はむしろ、ここでみんなが死んでゆくとしか思えない。
森有正(1911-76)による、たぶんフランス語訳からの重訳本も僕は持っているはずなのだが、僕の本棚に見当たらず、今は望月市恵訳(岩波文庫)に拠った。
パリに限らず、ニューヨークもトウキョウもハノイ、シャンハイ、カサブランカ、リオデジャネイロ、シドニー、サンクトペテルブルグ、ベルリン、ジャカルタ、バンコク、ニューデリー、テヘランー・・・およそ大都会というものは「マルテ」が描くような匂いを帯びているのでしょうね。生の躍動が多ければ多いほど死の誘惑も多いということなのだろうか。大都会の孤独な死。

先日、朝日新聞の富山版を見ていたら、カトリーヌ・ドヌーヴの『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』の上映記事があった。佐伯龍蔵(フォルツァ総曲輪)という方の記事。読み進めて、『PARIS』が9日から富山で上映されることを知った。フォルツァ総曲輪に電話して上映時間を確かめ、今日初日第1回を観に行って来ました。観客10人前後^^。

監督のセドリック・クラピッシュ(Cedrik Klapisch1961-)はパリ郊外の生まれ。ニューヨーク大学でも映画を学び、帰国後数年して『百貨店大百科』で長編監督デビュー。1996年『猫が行方不明』、96年『家族の気分』、99年『パリの確率』(ジャン=ポール・ベルモンド主演)、2002年『スパニッシュ・アパートメント』、05年『ロシアン・ドールズ』など。これだけ「多作」なのはきっと人気がある監督だからなんでしょうね。僕は『PARIS』が初めてです。クラピッシュ監督の公式サイト(フランス語・英語)はこちらです。

映画では登場人物がタペストリーのように物語を紡ぎ出す。
ピエール。ムーラン・ルージュで成功を収めつつある矢先に心臓病で余命わずかだと医者に告げられる。心臓移植で助かるかもしれないがその確率は40%。
エリーズ。ピエールの姉。ソーシャルワーカー(社会福祉士)、3人の子どもを育てるシングル・マザー。ピエールに呼ばれ、彼の病について打ち明けられる。エリーズ役はジュリエット・ビノシェ(『ゴダールのマリア』『存在の耐えられない軽さ』『イングリッシュ・ペイシェント』など)。
ロラン。ソルボンヌの歴史学教授。この映画の登場人物の中では一番僕の実年齢に近いでしょうね。橋爪ナントカって日本人俳優に似てます。出演料の10万ユーロに眼がくらみ(違う解釈もできるシーンですが)、TVでパリの文化知識を広める番組に出演することになる。ソルボンヌで彼の講義を受講するレティシアに「ぞっとするようなおぞましい美」を見出す。ストーカーのように彼女にショートメールをする。
フィリップ。ロランの弟、建築士。父を埋葬した後で泣いていたら兄から「スープとメラニーのフェラで立ち直れ」と励まされる。
レティシア。ピエールの対面のマンションに住む。ピエールの片想いの相手。彼女は、怪しいショートメールの発信者をカフェで突き止める。ロランを詰問した末、ロランの家で彼と寝る。
パン屋の女主人。彼女は沢口靖子に似ている^^。バイトに厳しいがハディージャは働き者だと高い評価。
ジャン。元妻のカロリーヌと同じマルシェで青果商を営む。カロリーヌのバイク死亡事故後、彼女の遺灰をモンパルナス・タワーから散灰する。弟ピエールから「姉さんはまだ40なんだから」と言われたエリーズはジャンとやがて結ばれる。
ブノワ。カメルーンに住む。ジダンのユニフォームを着ている。彼はやがて兄からのハガキ(表はエッフェル塔)により、カメルーンからパリを目指す。カメルーンでは水泳コーチをしていて、その時知り合ったマルジョレーヌに再会したいと思っている。

登場人物をまだまだ紹介したいのですが、こんなところでご勘弁を。
統計をとったわけではなく僕の勝手な想像なんですが、フランス人は日本人の7倍以上はSEXをしそうな気がする。この映画でも、露骨なSEX描写はありませんが、
ロラン+レティシア、エリーズ+ジャン、ピエール+ラシェル、カロリーヌ+フランキー
などが描かれます。

『PARIS』は日本ではBunkamuraで初公開。その時のパンフレットが左上の写真。セドリック・クラピッシュ監督が「パリであなたが好きな場所は?」と聞かれた答えが同パンフレットに載っています。彼は以下のように答えています。
 ひとつには絞れないな。そこがパリのいいところなんだ。強いて言えば、セーヌ川とサン・ルイ島には特別の思い入れがある。人生の重要な時期に、そこを歩いて自分を見つめ直すんだ。撮影が終わった後にも行くよ。僕にとっては必要なことだ。街の心臓の中心部という感じがするからだと思う。
映画のラストシーン。心臓移植を受けるためにタクシーで病院に向うピエール。バスティーユ広場の「7月の円柱」(7月革命記念塔)も見える。この映画の登場人物たちもタクシーの中から見る。タクシーの座席で横になったピエールはつぶやく。
皆、幸運に気づいていない。歩いて、息して、走って、口論して、遅刻して・・・なんという幸せ。気楽にパリで生きられるなんて

字幕が映像の光で読みにくかったり(フランス語がチンプンカンプンなボクには字幕は貴重!)、最後のクレジットが長すぎたり(フランス映画界は労働組合が強そうなのでこうなっているのかもしれない。クレジット中に、たぶんクラピッシュ監督の子どもの名前もありました!)といった欠点はありましたが、久しぶりに映画を堪能しました。
パリが舞台のこの映画、生と死と並んで、姉弟愛・兄弟愛も主要なテーマなんでしょうね。また、この映画では、ロランが古いパリの象徴でブノワが新しいパリの象徴なのかもしれない。

映画『PARIS』の日本での公式サイトはこちらです。

(注)本記事はBunkamura発行のパンフレット「PARIS」から多くを引用させていただきました。ほかにネットからも情報を得ました。感謝申し上げます。

(5月11日夜・訂正
森有正訳『マルテの手記』はどうやら存在しないようです。『フィレンツェだより』(こちらは筑摩書房刊、栃折久美子さん装丁の函入りで僕は持っています)とゴッチャになってました。お詫びして訂正します。
哲ちゃん、ご教示ありがとうございました。
by tiaokumura | 2009-05-09 13:58 | 映画 | Comments(0)


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